「遠い空の向こうに(October Sky)」の原作は「Rockets Boys」。「Rockets Boys」(1998年出版)は、元NASAのロケットエンジニア「ホーマー・ヒッカム・ジュニア」による青年期の回想録である。 映画タイトル「October Sky」は、原作タイトル「Rockets Boys」のアナグラム。アナグラムとは、単語のスペルをばらして入れ替えることによって、全く別の意味の単語にする言葉遊びだ。本作は、ホーマー(ジェイク・ギレンホール)が同級生3人を誘いロケット制作に挑戦する物語だから「Rockets Boys」。そして、ホーマーが、ロケットづくりを始めるきっかけとなったスプートニク(人類初ソ連の人工衛星)の打ち上げが1957年10月だから「October Sky」。タイトルの由来はそんなところ。
本作は、中学、高校の英語の教科書に掲載されたこともある名作でもある。人生を切り開くための大切な教訓が詰まっているお宝青春映画だ。
舞台は、ウエストバージニア州にある山間に囲まれた町コールウッド。コールウッドの地場産業は炭鉱、奨学金で大学に進学できるスポーツ選手以外、男は炭鉱夫になるのが通例だ。主人公ホーマーの父ジョン(クリス・クーパー)は、炭鉱現場の責任者、ホーマーには一目置かれる炭鉱夫になってほしいと願っていた。
しかし、ホーマーは、コールウッドの上空を通り過ぎるスプートニクを見た瞬間から、ロケットで頭がいっぱい、高校の同級生3人とロケット制作に没頭することになる。空高く飛べるロケットをつくるために、材料調達に知恵を使い、科学的な知識を蓄積し、試作と飛行実験を繰り返した。夢を真剣に応援する高校教師ライリー先生や材質や溶接についての技術を教えてくれる炭鉱の人たちの助けもあり、ついに、空高く一直線に飛ぶロケットが完成。全米科学コンテストで優勝し、ロケットボーイ4人は奨学金で大学に入学する。
ホーマーいわく、全米科学コンテストで優勝する確率は100万分の1くらい。奇跡的な優勝確率だ。ホーマー達は、ロケットを飛ばすことだけを考え、ひたむきに挑戦した。ロケット制作過程での困難や理不尽に屈せず、挑戦をあきらめなかった。そんなホーマーだから、ロケット制作を猛反対していた父ジョンも、最後には、ホーマーに手を貸すことに・・・。コンテストで試作ロケットが盗まれるといった惨事が発生した時、変わりの試作ロケットを用意してくれたのは、なんとジョンであった。コンテストのあと、ジョンは、ホーマーに、「お前はヒーローに会ったんだろ?」と聞く。ジョンが言うヒーローとは、V-2ロケットの開発者であるヴェルナー・フォン・ブラウンのことだ。コンテスト会場シーンでは、ヴェルナー・フォン・ブラウンも登場していたのである。つかさず、返事するホーマー。「違うよ。僕の見ている世界が父さんとは違うのは、僕が父さんと違っているからじゃない、同じだからだ。父さんと同じくらい分からず屋で強情だから。僕の目標は父さんみたいになる事。確かにフォン・ブラウン博士はすごい科学者だけど、僕のヒーローじゃない。」反目しあっていた親子の気持ちが一つになる、名シーンだ。
本作は、青年(ホーマー)、青年の両親、青年の教師、青年の友達、青年を支える地域の人達、それぞれの立場で見ると興味深い。青年の夢を理解できなかった父親との対立と和解、青年の夢を完全否定する先生と青年の可能性を信じて心から応援する先生、青年と一緒に挑戦する本物の仲間(友達)、青年の課題の実現に力を貸す溶接工の人達など、青年を取り巻く登場人物一人一人のふるまいが、青年への影響力となっている。
青年達の夢の実現にむけて周囲の人達の気持ちがひとつになっていく後半、涙腺がゆるみっぱなしになるのは覚悟しておいてほしい。感涙のあとには、心の中のもやもやを一掃するような、すがすがしさを感じるに違いないから・・。
夢の実現に近道はない。夢に真摯に向き合い、できる努力を惜しまず、夢に可能な限りの熱量を注ぎ込む、一生懸命やっていれば、まわりに理解者もあらわれ、夢も叶う。それが本作の教訓だ。
ホーマーが参加したコンテストは、国際学生科学技術フェアとして現在も行われている。
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