1985年アメリカ映画。アメリカに亡命したトップダンサー、ニコライ・ロドチェンコ(ハイル・バリシニコフ)は旅客機事故でシベリアに不時着し、KGB(ソ連国家保安委員会)のチャイコ大佐(イエジー・スコリモフスキ)に身柄を拘束される。チャイコ大佐は、ニコライをソ連のバレー界に復帰させようと考え、ソ連に亡命しシベリアで生活するアメリカ人レイモンド・グリーンウッド(グレゴリー・ハインズ)をニコライの見張り役に抜擢する。ソ連でのニコライは、厳重な監視下に置かれ、いっさいの自由がない。
ニコライは、ソ連を脱出する決意をし、ニコライの決意を聞いたレイモンドも、妻のダーリャ(イザベラ・ロッセリーニ)と共にソ連を脱出する決意を固める。レイモンドはベトナム戦争の脱走兵でロシアに亡命したタップダンサーであるが、ダーリャのお腹にいる自分達の子供は、ロシアで育てたくないと考えたのだ。さて、ニコライ、レイモンド、ダーリャは、KGBのがんじがらめの監視の目をすり抜け、不可侵権があるアメリカ領事館にかくまってもらうことができるのだろうか。結果がわかるまで、ドキドキハラハラ、画面に釘付けだ。
この映画の見所は、プロフェッショナルなダンス。キーロフ劇場(現マリインスキー劇場)で、ニコライがかつての恋人、ガリーナ・イワノワ(ヘレン・ミレン)の前で、ヴラジーミル・ヴィソツキー(ロシアに対する体制批判を理由にロシアから追放された歌手)の歌声をバックに踊るシーンは超圧巻である。ソ連脱出前のニコライとレイモンドのペアダンスも、一糸乱れぬ動きの美しさに、目が釘付けになる。脇を固めるガリーナ、ダーリャ、KGBのチャイコ大佐の三者三様の個性も、映画を上質にさせている。そして極めつけはバラード。ライオネル・リッチーが歌う主題歌「セイ・ユー、セイ・ミー」と、フィル・コリンズとマリリン・マーティンがデュエットした挿入歌「セパレート・ライブス」は、両曲ともにビルボードの全米シングル・チャートで1位を獲得した大ヒット曲。「セイ・ユー、セイ・ミー」は、アカデミー賞歌曲賞も獲得した。
ニコライ役のハイル・バリシニコフはソ連出身のバレエダンサー・振付家・俳優で現在74歳。1974年に米国に亡命し、1986年に帰化した。2022年ロシアによるウクライナ侵攻が行われて以来、作家のボリス・アクーニン、オレグ・ラジンスキー、経済学者のセルゲイ・グリエフと共に、「真のロシア」の発起人となり、アメリカのクラウドファンディングプラットフォーム「GoFundMe」を介して、ウクライナ難民を支援するための募金を行なうとともに、プーチン大統領からロシア文化を取り戻し、ロシアの芸術家を守るための活動をしている。
レイモンド役のグレゴリー・ハインズは、ニューヨーク生まれの俳優・歌手・ダンサー・振付師・声優。癌により2003年、57歳で亡くなる直前まで、タップダンスの普及に貢献した。
ロシアでは、ソ連時代から、言論や芸術への抑圧による芸術家の亡命が存在していた。また、映画では、極寒地シベリアに抑留された人達の労働現場のシーンや、アメリカ、ロシア間の囚人交換のシーンがあり、今だ、ウクライナとの戦争で、同様のことが現実問題として起こっていることについて、考えされられた。
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